特許出願が持つ化け機能?

秋晴れの大阪市内
秋晴れの大阪市内

 特許の申請(特許出願)の対象となるのは、ある程度のレベルの技術的特徴が認められるアイデアであって、技術的特徴が乏しいアイデアは実用新案登録を選択せざるを得ない・・・

 技術的特徴が乏しくともデザインの創作性があれば、そのデザインについて意匠登録を受けるという選択がある・・・

 

 一般的には妥当な認識ではありますが、今回の記事では、

 そのように決めつけてしまう前に

 特許出願が持つフレキシブルな機能

を活用することを検討してみてはいかがでしょうか

 という提言をいたします。

 

 その機能を、ちょっと乱暴な言葉で表現しますと、

 実用新案にも意匠にも化けられる機能、というものです。

 

 当たり前の言葉で言い直しますと、

 特許出願を実用新案登録出願または意匠登録出願に変更することができる

変更出願という制度を利用する、

という話になります。

 

 実用新案の出願は、実体的な審査が行われることなく、出願から数ヶ月で登録されてしまいます。

 「権利」と言っても内容の吟味をされることなく登録されたものなので、侵害行為が発生した場合の権利行使が困難ですし、権利期間も短くなります(出願の日から10年間)。

 

 意匠登録で保護できるのは、あくまでもデザインの面での特徴です。悪質なコピー行為を防ぐには有用な権利ですが、技術的工夫を保護するのは困難です。

 デザインを変更して同等の機能を持つものが製作される可能性がある場合や、自らもデザインの色々なバリエーションをお考えの場合には、複数件の意匠登録が必要になる可能性が高いと思います。 

 

  そのようなシーンに直面したときに思い出していただきたいのが、先に述べた特許出願の化け機能です。

 

 技術レベルがあまり高くないと感じられる場合や、費用の面から特許を選択するのはハードルが高いと感じられる場合でも、特許を受けることができる可能性はゼロではないという心証があるならば、

 ひとまず特許出願として書類を提出し、後日にそのときの事情をふまえて実用新案または意匠に選択し直すことを検討する、という手を、ぜひ検討してみて下さい。

 

 ちなみに、法制度としては、実用新案登録出願や意匠登録出願から特許出願に変更することも認められています。しかし、実用新案の出願は、実体的な審査なしに出願から数ヶ月で登録されてしまうので出願変更の余裕がありませんし、そもそも実用新案で良いと考えて出願したはずなので、よほどのことがない限り実用新案から特許に変更しようという気持ちにもならず、変更の事例は殆どないと思います。実用新案登録後にその権利を放棄して特許出願に差し替えることができる制度もありますが、これも殆ど利用されていないと思われます。

 意匠登録出願から特許出願への変更も、文字情報が乏しい意匠の書類から特許出願に必要な文書を作成することは難しいですし、こちらも結構早く登録されてしまいますので、滅多には発生しないと思います。 

 一方、特許出願は、出願人が出願審査請求という手続をするまで審査が開始されることがありませんので、変更出願の機会を担保しやすいです。

 出願から出願審査請求の期限が到来するまでの3年間という制限はありますが、

その期間中、対象商品を「特許出願中」としてアピールしながら、その後の手続をどう進めるのが良いか、検討することができます。

 

 売れ行きが好調であったり、類似品が出回っているような場合には、そのまま特許出願を継続して出願審査請求をし、特許取得を目指すことができます。

 

 売れ行きはイマイチで特許出願を継続しても費用対効果がないと感じられる場合でも、特許出願を実用新案出願に変更して実用新案登録を受けることによって、少なくとも出願した技術が完全に自由実施技術になることは避けられ、営業面でのアピールに活用することができます。模倣行為に対するある程度の牽制効果を得られる可能性もあります(無審査で登録されたのだから真似をしても構わないという理屈にはなりません。)。

 

 デザインの特徴が認められるものについては、意匠用の図面を作成し、それを含めた特許出願の書類を作成して提出しておけば、特許出願から意匠登録出願に変更することができます。

 また特許出願について分割出願をすることで2件の特許出願をしたのと同じ状態にした後に、一方の出願を意匠登録出願に変更することによって、特許および意匠登録の両方を目指すこともできます。

 

  特許出願で頑張ることにして出願審査請求をした後でも、出願変更の手続をとることができます。

 たとえば拒絶理由が通知された段階で、特許取得をあきらめて実用新案登録出願や意匠登録出願に変更することができますただし時期的な制限はあります。詳しくは末尾の補足説明をご参照下さい。

 どの段階で変更をしても、変更後の出願は、最初の特許出願の日に提出したものとして取り扱われますので、最初の特許出願の後に発生した自己または他者の行為(出願・商品化など)が権利化の阻害要因になることはありません。

 

 かくのごとく、特許の化け機能をうまく活用すれば、最初から実用新案や意匠を選択するより保護力や事業活動でのアピール力を高めることができる可能性があります。

  特に、簡単な仕組みではあるが力を注いで開発した商品や、容易に模倣される可能性が高いアイデアによる商品については、実用新案または意匠に変更する可能性を視野に入れた特許出願 を検討されることをお奨めします。

 

株式会社知財アシスト 知財よろず相談員

 小石川 由紀乃 (弁理士)

 出願の形態を変更するには出願が特許庁に係属している必要があります。

 取り下げ・放棄・拒絶の確定によって死滅した特許出願は変更することはできません。また特許されて特許権の設定登録がされたものも、変更の対象外となります。

 また実用新案登録出願への変更は、実用新案権の存続期間(出願から10年)との関係から、

最初の特許出願の日から9年6ヶ月の時点までとされています。

その他の注意点

 実用新案や意匠に変更できるのは、物品(モノ)に関するアイデアに限られます。

 また変更出願において、最初に提出した特許出願の書類から導き出せない修正や追加が行われた場合には、変更出願の出願日は、最初の特許出願の日には遡らず、実際の手続をした日であると認定されてしまいます。