分割出願の活用を考える

 分割出願とは、1つの出願の書類の中に複数の発明が記載されている場合に、それらの中の一部の発明を抜き出して元の出願とは別の出願にする手続を言います。

 技術的特徴に共通の関係があると認められる発明は、発明毎に請求項を設定することによって、1つの出願にまとめて権利化することができ、そうする方が費用の節約にもなる、という利点がありますが、その思惑どおりにはゆかないことも結構多いと思われます。

 

 たいへん大雑把ですが、下図により、発明A発明Bという2つの発明を含む出願を想定して分割出願のオーソドックスな事例を説明してみます。ここでは、発明Aを請求項1、発明Bを請求項2として1件にまとめて出願をしたが、請求項1には拒絶理由が通知され、請求項2には拒絶理由がないと判定された、としています。

 このような場合、下手をすると、審査が長期化し、その結果、最後まで拒絶理由を解消できずに共倒れになってしまうおそれがあるので、図示例では、拒絶理由が通知されなかった請求項2を残し(手続としては請求項1を削除して請求項2を請求項1に繰り上げる。)、請求項1を別の出願に移行させる、という策をとっています。許可してもらえる発明Bについて特許を受け、問題のある発明Aも分割出願により存続させて「次の一手」を講じる、という戦法です。

  元の出願は、拒絶理由が解消したことにより、特許されます。

 分割出願の方では、元のままの請求項ではまた同じ拒絶理由を通知されてしまうので、拒絶理由の内容をふまえて請求項の記載を見直します。その見直しによって前回の拒絶理由が解消し、他の拒絶理由が見つからなければ、分割出願でも特許を受けることができます。 

 分割出願には、分割の元となった出願と同じ時に出願されたものとみなされる出願日の遡及効)、つまり元の出願の日から分割出願の日までの間に出願された他者出願より先に提出されたものとして取り扱われる、という利点があります。

 また、上の事例のように、もともと請求項が設定されていた発明を分割するものに限らず、明細書本文や図面の記載に基づき新規の請求項を設定して分割することもできます。元の出願の請求項とは技術的特徴に共通の関係がないと思われる発明であっても、明細書本文や図面に記載されているのであれば、それを分割して特許取得を目指すことができます。

 原出願の書類に確かに記載していると言えるかどうかの判定が難しい場合もありますが、事業活動にとって有用な技術に関しては、戦略的に活用することにチャレンジして良いと思います。うまくすれば、一つの出願から複数の特許権が生まれる可能性が生じます。また元の出願についてちょっと戦略を誤ったときに軌道修正ができる場合もあります。

 拒絶理由を受けた場合には、割合に分割出願の検討をする意識を持ちやすいのですが、同じように検討する必要があるのに見逃されがちになるのは、特許査定を受けた場合、特に拒絶理由を通知されることなくストレートに特許査定が来てしまった場合です。

 現行の制度では、特許査定の謄本が送達された日から30日間(特許料の納付期限が来るまで)という短い期間ではありますが、分割出願をすることが認められています。無事に許可されたことでつい安心してしまうのですが、許可された請求項で事業を保護するのに万全であるか、競合への優位性を高めるなど、他の観点から権利化を目指す余地がないかなどを検討すべきです。そして、その必要があると感じられる場合には、この機会を逃すと、もう分割出願はできなくなりますので、とにかく分割出願を遂行することです。とりあえずは原出願と同じ内容の書類を提出して後日に補正をしても良いし、出願後に必要がないと判断した場合には、審査請求をせずに放置または出願を取り下げれば良いのです。

 

 もう一つ、これには異論が寄せられるかもしれませんが、資金に余裕がない企業や早期に特許を取得することを希望する企業にご検討いただきたい・・、と思っている方策があります。

 一般的には、当初の請求項をできるだけ広くして拒絶理由に応じて範囲を狭めてゆくという策をとりますが、それとは反対に、まず、 実施する発明を保護することを優先する目的でかなり範囲を狭めた請求項を設定して出願をし、その出願について無事に登録査定を受けることができたら、少し欲張った請求項を設定して分割出願をする、という方策です。元の出願で取得した特許権を事業に活用しながら、より広い技術範囲に及ぶ権利取得を目指す、という方針ですので、余裕をもってチャレンジできるのではないかと思います。

 分割出願と言っても、新しい出願なので、出願料・出願審査請求料・特許料は通常と同じ額を支払わなければなりません。また原出願の日から3年以上が経過してから分割出願をする場合には、速やかに(分割出願をした日から30日以内)出願審査請求をしなければなりません。新規出願ほどでないにせよ、弁理士の手数料もかかりますので、無理矢理、やみくもに分割出願をすることは決してお奨めしませんが、分割出願ができる時期を見逃さず、この制度を活用できる可能性や活用するメリットがあるかを検討することを、是非、意識していただきたいと思います。

 分割出願は、元の出願が有効(出願審査請求の期限をすぎていない)であれば、元の出願の出願審査請求が完了しているか否かにかかわらず、行うことができます。ただし、出願審査請求をして最初の審査結果が通知された後は、以下のように分割出願をできる時期に制限がかかります。

 ● 拒絶理由通知を受けた場合には、その通知に対する応答(意見書の提出)ができる期間以内

 ● 拒絶査定を受けたことに対して拒絶査定不服審判を請求するとき、または拒絶査定の謄本の送達の日から3ヶ月以内*1

 ● 特許査定を受けた場合には、その査定の謄本の送達の日から30日以内*2

 *1について・・・初めて拒絶査定を受けた場合に限りの適用(ただ2回目というのは殆どないことですが・・)ですが、拒絶査定不服審判を請求せずに分割出願でやりなおすことができます。

   *2について・・・特許査定を受けてから30日以内であっても、 元の出願について登録料が納付されたことによって特許権の設定登録が完了してしまうと、分割出願はできなくなります

 分割出願をすることを検討している間は、くれぐれも納付期限に用心しながら、元の出願の特許料を納付するより前に結論を出して下さい。 

 理屈の上では、元の出願の書類の記載に基づいて元の出願の請求項とは異なる概念の請求項をたてることができるならば、分割出願をすることができますが、そう言えるかどうかの判断をするのが非常に難しい場合もあります。しかし、先にも述べたように、判断が微妙な場合であっても、事業にとって必要なことならばチャレンジしてみて良いと思います。

 加えて、 本当は複数の出願で保護をはかるべきだが一度に複数の出願をするのは難しい・・・という企業さんには、時期をみて分割することを視野に入れ、最初の出願書類に分割の要素となる事項を十分に盛り込んでおくことをお奨めします。 

文責 弁理士 小石川 由紀乃