「相当の対価」を考える

 相当の対価・・・この言葉でウェブ検索をすると、特許法第35条の職務発明規定に関する情報がダダっと出てまいります。

 

 しかし、このブログ記事は、上記のテーマに関するものではありません。

 

 士業・コンサルティング業など、企業の事業活動をサポートすることを業として行う者が、遂行した仕事に対して受けるべき対価について、日頃考えていることを整理して問題提起してみようと考え、自分に馴染みのあるこの表現を使いました。

(ちなみに、特許法第35条の「相当の対価」は平成27年の法改正によって「相当の利益」という表現に変更されました。金銭に限らない経済的な優遇措置を従業者に与えることもできるという趣旨での改正だそうです。その他のことで職務発明制度についての記事を求めておられる方は、すみませんが他の知見豊かな専門家が発信されている情報を御参照下さい。) 

 

 まずはお堅く、用語の確認です。

 

 手元の広辞苑第7版で「相当」という語を引くと、下記の2つの意味が示されていました。

 (1) 程度や地位などが、そのものにふさわしいこと、つりあうこと、あてはまること。

 (2)     普通を超えているさま。 かなりな程度であるさま。

 

 (1)については、「国賓相当の待遇」というように、釣り合わせる対象を明記して使用される場合が多いようですが、「相当の対価」も、「(遂行した仕事の価値に)相当する・・」と解釈でき、(1)の意味があてはまると考えて良いでしょう。

 

 「対価」についても、同じく広辞苑第7から引用します。

  ある給付の代償として相手方から受けるもの。代金・報酬・賃料・給与の

 

  ここでは対価=報酬と考えてよいでしょう。 

 

 それから、これは適当な表現とは言えないかもしれませんが、

  対価を受ける人たち(士業・コンサルティング業、その他企業の事業活動をサポートすることを業として行う者)のことを、以下、「サポーター」と言うことにします。

 

 サポーター業も当然サービス業の範疇に入ると考えられますが、一般的なサービスとは異なり、仕事の内容やどこまでの労力をかけているのかわかりにくいという問題があります。何らかの専門知識やスキルを使う仕事なのだから、時間チャージ制を適用しても差し支えないかもしれませんが、たくさん時間をかけても良い結果が出るとは限らないし、能力が不足していることやミスがあったことが所要時間を長びかせる可能性もあります。

 

 もし、そのような理由で長引いた時間も含めて算定された対価が請求されたならば、それは「相当の対価」とは言えないと思います。

 相当のスキルと心構えのあるサポーター(ここの「相当」は前述の(2)の意味の「相当」ですね。)でなければ、時間チャージ制を採用することは許されません。

  

 クライアント(サポートを受ける企業など)も仕事が完了するまで料金が確定しないと頼みづらいでしょうし、事前に見積もりを求めるクライアントも多く、時間チャージ制は日本には馴染まないように感じます。

 

 一定の成果が得られたときに成功報酬として対価を請求する方法は、初期費用が抑えられることから、クライアントも比較的受け入れやすいと思われます。しかし、相当の対価になるかどうかについては、時間チャージ制よりも根深い問題があると感じます。 

 

 成功報酬も、実際にその成功を勝ち取るためにサポーターがどれだけ尽力したかを反映させた額とするのが望ましいはずですが、これを決めるのは結構難しく、サポーターとクライアントとの間の認識に齟齬が生じる可能性もあるでしょう。

 そこで、一般には、クライアントが成功によって得た利益や売上額をベースに、そのベースに一定比率を掛け合わせた額を成功報酬とすることが多いようですが、そのような決め方で「相当な対価」と言える成功報酬額を算定できるでしょうか・・・・・? 

 

 事実、相場はこのくらいだとか、利益の○○%をもらうことに決めているとか言っているサポーターの言を聞いたことがありますが、その基準に従って導出されている成功報酬は、私個人の感覚では理解しがたい法外な額でした。

 そういう基準で請求される報酬が、果たして遂行された仕事の質に見合った額であると言えるのか、もらって差し支えないと胸を張って言えるのか、ご当人に問うてみたいです。 

 

 

 サポーターに限らず、そのサポートを受けるクライアント側にも、対価に対する意識の薄さを感じることがあります。

たとえ目立った成果や希望する結果が得られなかったとしても、

短時間の面談のみでたいして役に立つことがなかったとしても、

専門知識やスキルをもつ人間がその知的資産を使って自分のために働いてくれたときは、

その働きに対して対価を支払う必要がある、

ということを、きちんと意識すべきです。

 

その意識の薄さが、過剰な額の成功報酬を招いている可能性もあります。

 

 サポーターも、自身の業として行う以上、事業所を維持し、日々の暮らしを賄えるだけの報酬を得なければなりません。クライアントに向き合っている最中に、「なんとかここで仕事を獲得したい」という自己都合寄りの気持ちが沸いてくることも、あって当たり前の話です。

 しかし、その気持ちが勝ちすぎてしまうと、遂行した仕事の内容に見合っているとは言えない高額の成功報酬を請求したり、格安の報酬をアピールして仕事をかき集めて画一的に処理するなど、顧客が見えない歪んだビジネスをしてしまうおそれがあります。 

 

 ちなみに、弊社(株式会社知財アシスト)ではまだ成功謝金をいただくような事案は発生していませんが、私が特許庁手続の代理を営む個人事務所の方では、登録までに要した手数によって成功謝金の額を調整したり、拒絶理由を解消できるかどうか微妙な案件に対する手続の費用を下げ、解消できたときに減額分を成功謝金としてご請求するような方法を試みています。

 

 「相当の対価」の「相当」は 、広辞苑に掲載されている一番目の意味によるものであることは確かなことと思います。しかし、先に述べた歪みが大きくなると、(2)の意味での「相当」にあたることになるかもしれず、注意が必要です。 

師走の四条大橋からみた風景
師走の四条大橋からみた風景

 どんな方法で対価を請求するにせよ、果たしてどのくらいの額が「相当」なのかわからず、なんとも曖昧で頼りない表現ではありますが、私自身は、サポーターとクライアントとの双方が「妥当な額だ」と思えたときの額が、理想的な「相当の対価」ではないかと思ったりしています。

 

 その理想どおりにはなかなかゆかないでしょうが、それを実現するには、お客様との信頼関係を築くことが欠かせません。

 信頼して仕事を任せて下さったお客様には、責任をもってその仕事を遂行し、お客様に快く対価をお支払いいただけるように努めてゆきたいと思っております。

 

 どうか、引き続きお引き立てのほど、よろしくお願い申し上げます。

株式会社知財アシスト 代表取締役

 小石川 由紀乃 (弁理士)

小石川由紀乃 プロフィール

 理系出身者が圧倒的多数を占める弁理士業界において、大学で神経生理学や心理学を専攻した後、百貨店の書籍部門での勤務などを経て知財の世界に足を踏み入れた少し変わり種の弁理士。

 特許事務所勤務の傍ら、独学に近い無手勝流の受験勉強を経て、2005年に弁理士試験に合格。当初は、与えられた仕事をするだけのひきこもりタイプの勤務弁理士であったが、あるとき意を決して、外部との交流や情報発信などの活動を始める。

 中小企業のクライアントが多い特許事務所に長く勤務して見聞きした実情をふまえ、自分なりにできることをしようと、2013年に知的財産に関する専門部署を持たない企業に向けた知財サービスを提供する事業所:知財サポートルームささら(現・ささら知財事務所)を開設。

 より充実したサービスの提供を目指して、2015年8月に株式会社知財アシストを設立し、代表取締役に就任。