特許かんたん解説「国内優先権」

 先日解説したパリ条約の「優先権」は、最初の特許出願をした国とは別の国に対して効力が生じる権利でした。

 この他の国への出願用の「優先権」のほかに、日本国には、日本国内のみに効力を及ぼす「国内優先権」という優先権の制度があります。

 国内優先権も、基本的な部分はパリ条約の優先権と同じ・・・

つまり、ある特許出願(基礎出願と言います。)を行ってから1年以内に、基礎出願の書類に記載されていたのと同じ内容を含む別の特許出願を基礎出願に基づく優先権を主張して行うと、基礎出願の書類に記載されていた部分が基礎出願の日に提出されたものとして取り扱われる、という便宜を受けられる制度です。

 パリ条約の優先権を主張する出願では、提出する書類は基礎出願と実質的に同内容(基礎出願の書類の翻訳文)になることが多いですが、同じ国(日本)に同じ名義で同一内容の特許出願を2回提出することは、常識からみてあり得ません。

 国内優先権の制度は、特許出願後に、その出願書類に何らかの追加や変更を入れたい・・という事情が発生したときに利用されるので、基礎出願の内容の大半を包含しつつ新しい要素が加えられます。

国内優先権主張説明図1

 以下、どのようなときに国内優先権の制度を利用するのかを、架空の事例でご説明しましょう。


事例1

基礎発明の改良

A社は、ある開発について基本的な技術が確立したので、速やかに特許を受ける権利を確保しておこうと考え、特許出願をした。その後も試験や検討を重ねたところ、いくつかの改良点が出てきたので、A社は、これらの改良技術を含むより広い技術範囲に対して特許権を取得しようと考え、先日の特許出願の内容に改良技術やそれらの変形例を加えて、国内優先権主張出願を行った。



事例2

発明の実施形態の追加

B社は、ある装置の販売を開始するに先立ち、特許出願を行った。特許出願は実際の装置を保護するには十分の内容で、装置の販売も開始されたが、その後B社は、装置の一部分を別の形態にすると、製作が容易でコストも削減でき、しかも現在のものと同一の機能を満足できることに気づいた。

 そこでB社は、別形態も確実に保護できるようにしたいと考え、先日の特許出願に別形態を第2実施例として加えて国内優先権主張出願を行った。



事例3

出願内容の補充・追加

C社は、新しく企画した商品の発表に先立ち、特許出願を行った。

C社が特許出願をする必要があることに気づいたのは発表予定日のわずか10日ほど前のことで、発表の内容を保護できるレベルの書類しか提出できなかった。このためC社は、後日に、先日出願に公表しなかった事項を加えて国内優先権主張出願を行った。



 上記の事例1,2のように、特許出願をした時点では判明していなかったことや、開発した商品の見直しにより気づいたことなどを加えて、出願書類を充実させ、より価値の高い特許権の取得を目指す目的に国内優先権の制度を活用することができます。

 また事例3のように、特許出願の不足を補う目的で国内優先権主張出願をすることもできます。

 そのほか、出願書類の一部に大きな誤りがあった場合や、発明が適用される分野を拡張したい場合など、通常認められている補正の条件(出願当初の書類から導き出せる範囲)を超える加筆が必要になる場合にも、国内優先権を利用することができます。

 国内優先権も、パリ条約の優先権と同様に、権利を主張できる期間は原則として最初の特許出願から1年以内、という制約がありますので、この期限に間に合うタイミングで出願用の書類を整える必要があります。

 また、パリ条約の優先権の主張をしても、優先権の基礎となった出願に影響は及びませんが、国内優先権主張出願をした場合は、 基礎出願はその出願の日から1年3ケ月が経過したことをもって、取り下げとみなされてしまいます。

 

 基礎出願の書類に記載されていた事項は国内優先権主張出願に引き継がれ、また基礎出願の日にされたものとして取り扱われるので、基礎出願が取り下げとみなされても不利益が生じることは、まず、ありません。

 しかし、 基礎出願に記載されているのに国内優先権主張出願に含まれなかった事項は、国内優先権主張出願には引き継がれず、上記のみなし取り下げの規定によって消滅してしまいます

 国内優先権主張出願の書類を作成する際には、基礎出願から引き継がなければならない事項が抜け落ちてないかどうかも、十分に注意する必要があります。

 

 もう一つ、「発明の新しさ」が維持されているかどうかにも注意する必要があります。

  国内優先権主張出願の書類の中で基礎出願に記載されていた事項は、基礎出願の後に新しさが失われても優先権により守られますが、新たに加えられた事項は後の出願の日に提出されたという扱いになるので、新しさが維持されていなければなりません。

 たとえば、上記の事例2のように、発明品の別形態を考えついた場合は、その別形態の販売や発表をするより前に国内優先権主張出願を完了する必要があります。

  事例3の場合も、追加される事項は、実際の商品を見ればわかってしまうことが多いと思われるならば、商品の販売や展示が行われるより前に国内優先権主張出願を完了させる必要があります。

 

文責:弁理士 小石川 由紀乃