特許かんたん解説 審査請求はいつする?

 特許庁に提出した出願書類について審査を受けるには、出願審査請求という手続をしなければなりません。

 出願審査請求は、出願の日から3年までの間であれば、いつでもすることができます。

 早期に特許権を取得することを望む場合は出願手続と同時に行っても良いですし、期日ギリギリまで待って行うこともできます。

 中小企業や個人事業者にとって、出願審査請求をする時期を検討するときに一番重視されるのは、費用のことだろうと感じます。

 出願審査請求料や特許料は減免制度の適用を受けることで大幅に軽減されるようになりましたが、それでも数万円の費用が発生します*1ので、支払いに差し支えのない時期を選ぶことは当然のことだと思います。

 

 しかし、費用以外にも、考慮しなければならないことがあります。

 

 あくまでも私個人の考えによるものですが、以下の4つの事項に整理してみました。


(1) 発明の実用化はどこまで進んでいるか

 特許を受けるためには、発明品が世に出る前に特許出願を行う必要があります*2

 このため、アイデアがある程度まとまった段階や初期の試作を完了した段階で特許出願を行い、その後に、詳細な検証実験や本格的な設計にとりかかることも多いと思われます。

 しかし、開発途上にある段階で特許出願をした場合には、出願後にも新たな工夫や改良が発生し、それら新しい技術要素を保護するための特許出願が必要になる可能性があります。

 

 すでに完了した特許出願から1年以内であれば、その出願を基礎とする国内優先権主張出願をすることができます*3ので、特許取得を急ぐ必要がない場合には、少なくとも出願から8ヶ月程度まで出願審査請求の手続を保留し、国内優先権主張出願をする必要がないかどうか検討した方が良いと思います。

 出願から1年以上が経過した後でも、実用レベルの技術を確立できていない場合には、出願審査請求を急いでしない方が良いように思います。開発を進める中で、適宜、特許出願の内容を見直し、この出願の発明を基本発明として実用レベルの技術を保護できるかどうか、よく検討されることをお奨めします。

 

 逆に、技術は確立できたが、資金繰りなどの事情で商品化することが難しい場合は、早期の特許取得を目指して出願審査請求をすることを検討しても良いと思います。あくまでも私の個人的な考えですが、特許を取得することができれば、それをアピールすることで注目度を高めることができますし、融資を受けられる可能性や良い提携先を見つけられる可能性も高まるかも・・と考えられるからです。

(2) 特許を取得するためのコストを回収できるだけの収益が見込めるか

 出願審査請求がされた特許出願は、やがて特許庁の審査を受けることになりますが、審査では、大抵の場合、拒絶理由が通知され、応答の手続き(意見書や手続補正書の提出)をしなければなりません。

 めでたく特許査定を受けた場合も、権利を得るためには特許料を支払わなければならず、その後も権利を維持するために年次ごとに決まった額の特許料を払い続けなければなりません。

 出願料、出願審査請求料、特許料・・・そして特許出願や拒絶理由通知への応答に要する弁理士手数料を合わせた総額費用はかなりの額になります。少なくともそれらの費用を回収できるだけの収益が見込める可能性がなければ、特許権を持っていても、それは負の財産になってしまいます。

 

 特許出願は、大事なアイデアを保護する対策としてせざるを得ないとしても、その後は、発明品を世に出して世間の評価や商品の売れ行きなどを確認し、特許取得を目指す必要性が十分にあると判断したときに出願審査請求をする・・・というのが、費用対効果を重視する場合の堅実な方針であると思います。 

(3) 特許を受けることができる可能性はどの程度あると考えられるか

 発明の新しさ(新規性)はあるが過去の技術に対する進歩性は乏しく、特許庁の審査で拒絶される可能性が高いと思われる場合でも、防衛目的や他社を牽制する目的で、あえて特許出願を行う場合があります。

 このような場合には、できるだけ長く「特許出願中」といえる状態を維持するために、出願審査請求の時期を遅らせる作戦をとる方が良いかもしれません。

 特に、出願が公開されるまでの期間(特許出願から1年6ヶ月以内)が大事です。

 この期間内にできるだけ「特許出願中」をアピールして世間の注目度や評価を高めるとともに、

商標で覚えてもらえるようにし(もちろん商標登録を受ける)、品質,サービスなどの付加価値も高めるようにすれば、公開された出願の内容を研究した他社に類似商品を出されたとしても差別化ができ、たとえ特許を取得できなかったとしても、特許出願を有効に活用できたと言えるのではないかと思います。

 

(4) 審査を受ける対象の発明の見直しも必要

 特許庁で審査の対象となる発明は、「特許請求の範囲」に記載されている発明です。

 出願審査請求をする前に、もういちど「特許請求の範囲」を読み直し、現在の技術内容や市場に出した商品が「特許請求の範囲」に入っているかどうか、確認されることをお奨めします。

 

 もし、「入っていない」とすると、いまの「特許請求の範囲」に記載されている発明で特許を受けることができたとしても、自社の技術や商品を特許技術・特許発明品ということができなくなるからです。

 「入っていない」場合の対策として、

 現在の技術や商品が「特許請求の範囲」に入る状態になるように

 「特許請求の範囲」を補正してから出願審査請求をする・・

という方法があります。

 

 もちろん、出願当初の明細書や図面に補正の根拠となる記載があることが前提になり*4、根拠記載がないと思われる場合には、新規の出願など別の対策を考えねばなりませんが、それに気づくためにも、出願審査請求の前に「特許請求の範囲」を再考することは必要不可欠の作業です。 

 

 「特許請求の範囲」の再検討や補正は、専門知識やテクニックがないと難しいと思われますので、社内での検討だけでなく、出願の代理をしている弁理士にも相談し、実際の開発技術や商品のことなどを説明して検討してもらうのが望ましいと思います。

 しかし、代理人とは別の目線から出願書類の検討をすることで、代理人が気づいていなかった問題が見つかったり、良い作戦が浮上する可能性もあります。

 特に、事業に直結する大事な発明については、代理人以外の専門家にセカンドオピニオンを求めることも検討して下さい。

 なお、出願書類の補正は、出願審査請求をした後であっても審査の結果が通知されるまでの期間であれば自由に行うことができます。出願審査請求を済ませた後にこの記事を読んで心配になった方も、審査着手までにまだ余裕があるようでしたら*5、「特許請求の範囲」の見直しをしてみて下さい。

 上記以外にも、出願審査請求をする上での判断材料はあると思います。

 くれぐれも急がず、しかし期限があることを忘れずに、開発や商品化後の進捗状況などをふまえて良くご検討ください。

文責 弁理士 小石川 由紀乃

*1 軽減措置

 2019年4月1日以降に提出した特許出願の場合、通常の出願審査請求料は、

138,000円に4000円×請求項数を加えた額(142,000円以上)ですが、

出願人が中小企業であれば、通常料金の1/2が軽減されます。

出願人が設立10年未満のベンチャー企業または小規模企業であれば、

軽減率はさらに増え、2/3にあたる額が軽減されます。

 (個人事業者も上記と同じ基準で軽減措置を受けることができます。)

 

*2 発明の新規性

 特許を受けるための基本条件となる発明の新規性は、特許を受ける権利を持つ者自らが発明を公開する行為(展示会への発明品の出展、商談で外部に発明内容を説明、商品の発売を開始など)によって失われてしまいます。

 

 *3 国内優先権主張出願

 下記の記事をご参照下さい。

特許かんたん解説「国内優先権」

 

 *4 補正

 提出済の特許出願の書類に新しい事項を追加することはできませんが、出願当初の特許請求の範囲・明細書・図面から読み取れる範囲であれば、記載内容を変更する補正が認められます。これを利用して、請求項の内容を変更したり、新しい請求項を追加することができます。

 

 *5 審査着手時期について

 出願審査請求を行っても直ちに審査が行われることはありません。分野によっても異なりますが、審査着手まで1年程度かかることが多いです。

  出願審査請求を行った特許出願については 、特許庁に審査の着手時期を問い合わせることができます。

https://www.jpo.go.jp/faq/status/patent.html

 また近く審査に着手する予定の出願のリストを入手することもできます。

  https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/status/search_top.html

 なお、早期審査の制度を利用して通常より早く審査を受けられる場合があります。

  https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/v3souki.html