早いもので、今年も残すところ1ヶ月ほどになり、一年の出来事を振り返る時期になりました。
会社も個人事務所も、業績の伸びはなかなか認められませんが、それでも様々なご縁で出会った方やネット検索で見つけた下さった方からご相談をいただく機会が、少しずつ増えてきました。
今更なにを言うてますねん・・と、自分でつっこみを入れてしまいそうですが、それらのご相談を通じて、改めて相談内容の傾向について気づいたことがあります。
特許関係の相談をされる方は、何をおいても、まずご自身の考えたアイデアについて語られます。
特許出願をする場合の費用のことももちろん気にはなるのですが、それよりも知的財産(アイデア)の保護や活用に目を向けて話が進んでゆくケースが多いのです。
一方、商標に関する相談では、費用のことに一番に言及される方が非常に多いと感じます。
相談のアポをとられるより前に
「商標登録の申請をしたいんですが、いくらかかります?」
「見積もりをもらえますか?」
というような声を聞くこともしばしばです。
どんな商標なのか、どんな事業に使用されるのか、詳しい話を伺ってからでないと、費用を割り出すことはできない・・と申し上げても、なお
「ざっくり言ってどのくらいですか?」
というように、畳みかけて質問される方もおられます。
このような発言の裏には、
商標は形式的な手続をぬかりなくやれば必ず登録されるものだ
という誤認識があるのでは・・・と感じ、大変残念に思っています。
そのような発言は、出願するつもりの商標を決めてしまった段階で生じることが多いようにも感じられ、心配です。
お金をかけてロゴのデザインもし、チラシや名刺を印刷して、
使用を開始! または、もうすぐ使用する予定!
という段階まで進んでから、
そうそう・・・商標登録もしないといけないな・・・
と思って相談されるのでしょうが、本来は、
ネーミングの段階から商標登録を受けることの意義を意識し、
登録される可能性が高い商標を選別しなければなりません。
この意識が抜け落ちたままネーミングを進めて決定された商標には、大きな問題が付帯しているおそれがあります。
共通性が認められる分野の商品やサービスに関して同一または類似すると思われる商標がすでに登録または出願されている場合、
こちらの商標を登録することは難しくなり、さらに先に登録を受けた権利者から権利を行使されるかも・・という心配を抱えて商標の使用を続けなければならない、というリスクが発生してしまいます。
商標が決定されてしまった後で上記のような問題があるとわかった場合、諦めて別の商標を検討することができるならば良いですが、思い入れをもって考えた名前・・ということや、最初から検討し直すことは時期的にも費用面でも難しいということが多いため、よほど類似度が高い先登録商標・先願商標が見つからない限り、諦めることは難しいでしょう。
しかし、大事な商品やサービスの標識に、登録の可能性が低い商標を選択して良いはずはありません。
上記の問題はどんな商標にも言えることですが、
特に、会社・事業所の名称に関してはきわめて重要な問題です。
株式会社知財アシスト
のように会社名そのものを普通に示す表記は、商標登録を受けずに使用しつづけても特に問題が発生することはありませんが、
のように、株式会社を抜いた名称と図形とを組み合わせた表記や
のように、文字をデザイン化した表記は、
商標登録を受けていないと、使用を続けられるかどうか保証の限りではありません。
しかし,残念ながら、その問題に気づかぬまま、会社名称を決め、登記も完了させてしまうケースがきわめて多いように見受けます。商号としては同一名称の会社があっても登記は可能ですが、商標の登録ではそうはいきませんし、会社名称に限らず、商品やサービスの名称にあたる商標も比較の対象になります。
会社設立時は特に問題がなかったにも関わらず、商標登録を受ける必要性にさえ気づかぬまま長期間放置し、その間に他社に類似の商標を登録されてしまう・・というようなケースもかなりあると思います(実際の事例も知っています。)。
商標登録は商業登記と同じようなもので、滅多なことで登録が拒否されることはない、という誤った認識を持つ方が多くなっているとすると、その原因の一端は、この手続を専権業務として執り行う専門家である弁理士の行為に起因しているのかもしれません。
以前の記事にも書きましたが、昨今、商標登録申請の手続を格安で請け負うことや登録できなかったときには手数料を返金することをアピールしての営業活動を展開する特許事務所を多く見受けます。
なにごともビジネスであり、自由競争の世でもあり、やってはいけないという決まりもありませんが、そのような営業スタイルが増えることは、商標登録申請は簡単にできるものだという誤認識を増長させてしまうことにつながりかねないと思います。弁理士としての専門性の価値を低下させてしまうおそれもあると思います。
会社名や重要度の高い商品・サービスの名称は、商標登録により保護しておくことが絶対必要といって良いほど大事に考えねばならないこと、
登録のための手続より前に相当な検討が必要になるケースがあること、
申請をすれば必ず登録されるわけではないこと、そして
商標を決めてしまうより前の段階から専門家を含めての検討をする必要性があることを、
事業活動を営む方々に認識してもらえるように努力をしてゆくことこそが、
この道の専門家が意識すべきことではないでしょうか?
もちろん私も、この道の専門家の端くれです。
心して取り組まねば・・・と思っています。
株式会社知財アシスト
代表取締役 小石川 由紀乃(弁理士)
特許出願・商標登録出願などの特許庁手続は個人事務所(ささら知財事務所)でお受けしております。
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