セカンドオピニオン

5月の新緑(大阪市内)
5月の新緑(大阪市内)

 医療の分野ではポピュラーになったことば。

 広辞苑(第7版)でも

 「より良い治療法を見出すために、主治医以外の医者から聞く意見

というように、医療の専門家からアドバイスをもらう意味合いの用語として扱われています。

 上記の意味にあるとおり、

セカンドオピニオンとは、

 主治医を変更することを目的とするものではなく、

 主治医の治療方針が適切かどうか、もっと別の方法がないかなどを検討するために、

 主治医以外の専門家からその判断の材料となる情報をもらう

ということ。

 患者や家族の権利として社会に認知されるようになったとはいえ、主治医にとって、患者からセカンドオピニオンを受けたいと言われることは気持ちの良いものではないだろうし、セカンドオピニオンを巡って患者との間に軋轢が生じたケースも、たぶんあることでしょう。患者の方も、よほどの事情がない限り、セカンドオピニオンを求めるところまでいかないのではないかと思います。


  医療以外の専門的な知識に基づく判断が必要な分野でも、セカンドオピニオンの必要性は高いと思います。専門知識がないクライアントの多くは、たまたま出会った専門家の仕事の善し悪しを判断できずにそのまま受け容れてしまうことが多いでしょうが、その仕事が必ずしも適切であるとは言えないと思うからです。

 

 そう思うのは、実際に私が関わる知財の分野で、特許事務所(弁理士)から送られてきた手続原稿の案文を検討する能力がなかったため、または特許事務所とのコミュニケーションの不足から、お世辞にも良いしごとと言えない事例をいくつも見てしまったから・・・

 特許を受けることはできたものの、その権利内容に実際の商品が含まれていない(商品を特許製品と言うことができない。)というケースや、限定する必要のないことを最初から限定しているために、あまりにも狭すぎる権利範囲になっているというケースもありました。

  

 しかし、セカンドオピニオンという言葉が根付いた医療の分野でも難しいのだから、この言葉が根付いていない分野でこれをやろうとすることは大変難しいことです。

 

 実は、私自身もセカンドオピニオン的なことをしたことがあるのですが、代理人弁理士の頑強な抵抗にあってしまい、うまくいきませんでした。

 自分がした仕事に対して同業者に口を挟まれるのは、我慢ならんと。

 私からの提案を入れた手続をしてほしいとクライアントが要請しているにもかかわらず、

  それはできない・・

 私のことはあくまでも知財部員だと考えて、代理人として引き続き手続を遂行していただきたい、と言っても

 私と打ち合わせをするなんてまっぴらごめん

ということだったようです。

 

  こちらの案に対して、専門的な見地から検討に値するような反論をして下さるのならともかく、自分が気づかなかった不備を指摘されて、とにかく自己保身に躍起になられたご様子で、その度量の狭さに、心底、情けないなぁと感じてしまいました。

 

 言っても無駄、言うだけ損になる、と感じ取れたので、それ以上のアクセスはしませんでしたが、

 いったいどこを向いて仕事をしているの そんな意識だからこんな内容になったんじゃないの 

と言ってやりたい気持ちでした。

 

 もちろん私だって、逆の立場だったら、きっと嫌な気持ちになり、プレッシャーを感じることでしょう。

 しかし、それがまっとうな意見でクライアントも希望されているのであれば、きっと受け容れると思うし、その案を出された方ともしっかり向き合い、協力して進めてゆくつもり・・・ですが。

 

 


 かくのごとく、セカンドオピニオンを受けたとしても、主治医にあたる弁理士にその意見を受け容れるだけの度量がない場合、無駄になってしまいます。 

 

 オールマイティな専門家はいない。しかし、ほんの一部のことしかできないのでは話にならない。

 医者と同じで、専門知識があっても実務経験がないと役に立たない。

 経験が豊富であっても、それでガチガチに縛られて想像力を膨らませることができないようでは、応用がきかない。

 大事なことに気づいてそれを表現(クライアントにわかるように説明)できるセンスも必要。

 何より大切なことは、クライアントの立場にたってモノを考えようという意識。

  それがあれば、経験や知識が足りなくとも、どうすればそれを補えるかを考えられる。

  自分の調べで解決できることができないときは、必要な経験・知識を持つ人を探して協力を要請することだろう。

 

  信頼してもらえる専門家の理想像を私自身はこのようにとらえ、少しでも近づけるようにしたいと考えています 。

 

株式会社知財アシスト 代表取締役

 小石川 由紀乃 (弁理士)

 

小石川由紀乃 プロフィール

 理系出身者が圧倒的多数を占める弁理士業界において、大学で神経生理学や心理学を専攻した後、百貨店の書籍部門での勤務などを経て知財の世界に足を踏み入れた少し変わり種の弁理士。

 特許事務所勤務の傍ら、独学に近い無手勝流の受験勉強を経て、2005年に弁理士試験に合格。当初は、与えられた仕事をするだけのひきこもりタイプの勤務弁理士であったが、あるとき意を決して、外部との交流や情報発信などの活動を始める。

 中小企業のクライアントが多い特許事務所に長く勤務して見聞きした実情をふまえ、自分なりにできることをしようと、2013年に知的財産に関する専門部署を持たない企業に向けた知財サービスを提供する事業所:知財サポートルームささら(現・ささら知財事務所)を開設。

 より充実したサービスの提供を目指して、2015年8月に株式会社知財アシストを設立し、代表取締役に就任。