ものづくりと特許

 新型コロナウイルスの問題が深刻化し、第1回目の緊急事態宣言が発令されてから1年を超える月日が経過しました。1年前とは比べものにならないくらい感染が拡大して3回目の緊急事態期間も延長され、医療も経済も非常に厳しい状況にありますが、どちらの問題の解決にも直接に貢献できない身としては、できる限りの感染対策をとりながら与えられた仕事をしてゆく以外にできることはない・・と思って、毎日をなんとか乗り切っております。

 

 しかし、まあ、あきれたことに、本サイトへのブログ投稿は、昨年の4月3日を最後に、ぱったりと途絶えていました。

 自分にできることの1つとして頑張って情報発信をしてゆこう、コロナを「しないことの言い訳」にはできない、と宣言したにもかかわらず・・・

 ほんとに情けなく、恥ずかしい限りです。

 

   全く書くことができなくなるほど忙しかったのかなぁ・・と思い、記録を見直してみて気づきました。

  昨年の5月から8月末にかけては、私自身が考え抜いたアイデアをまとめて、弊社名義での特許出願をすることに、かなりの注力を向けていました。

 そして、2つのテーマについて、かなりボリュームのある特許出願を行いました(いずれもまだ公開されていません。)。

 その作業にエネルギーを使いすぎて、「書くこと」へのモチベーションが著しく低下してしまったのかもしれません。

 私は、かなり長きにわたる特許事務所勤務で特許関連の業務に携わり、決して多数とは言えないまでもある程度の数の特許の成立に関わってきました。独立後も、個人事務所で特許出願のご依頼をお引き受けし、特許取得まで進むことができた案件もポチポチと出てまいりました。

 それらの経験や調査の結果から、「たぶんこれは特許にできる」とふんで出願しているのですが、会社の名義で出願する以上、趣味や道楽のたぐいにするわけにはまいりません。

 結果はどうなるにせよ、実用化して社会経済の活性化に貢献するつもりで、その活動の支えにするために特許出願をしています。

 いずれどこかの企業様にご活用いただくことを想定していますので、実用化できる可能性を確認し、外部の方にも見ていただけるようにするための試作も行っています。

 その一連の活動を通じて、改めて・・というより、ようやく、下記の3点に気づきました。

 (1) 頭の中で考えたほど簡単に、実際のモノは作れない。

 (2) 結構な内容の特許を取得しても、それとは関係のない細かい技術事項をクリアする必要がある。

 (3) 発明者の欲目で特許にこだわりすぎると、市場のニーズを見誤る。

 

 これらの事柄は私に限らず、発明をされた方々の多くにあてはまると思います。

 特に、(1)(2)はアイデアは出せるが自分でものづくりをする能力がない人(私もその一人)が陥りやすい問題す。

    逆に、(3)は技術者の方に多く見受けられるように思います。

 いずれにしても、発明の実現可能性や成果を客観的にみて、柔軟に軌道修正をする意識を持たなければなりません。

 たとえば、試作をしてみて思いどおりにゆかなかった場合や、コストがかかりすぎて市場に受け入れてもられるような価格設定ができないとわかった場合は、その問題を解決するための見直しをする必要があるでしょう。

 ニーズの調査や販路の探索のために試作品を外部の人に見せて意見をもらうことによって、これまで気づかなかった観点から新しいアイデアが浮上し、試作をやり直さなければならないこともあるでしょう。

 開発能力を持つ企業でも、多かれ少なかれ事情は同じで、当初に発案したとおりのものがすんなりと作られて世に出てゆくケースよりも、試作や検討を繰り返す間に形態や仕様が変化してゆくケースの方が多いように思われます。

 後者のケースでは、最初に行った特許出願では最終形態をカバーできなくなっている可能性があるので、注意が必要です。

 最初の特許出願に最終形態に該当するものが記載されていない場合は新たな特許出願をする必要がありますし、最終形態が記載されていると解釈できる場合でも、その最終形態の概念が特許請求の範囲に含まれているかどうかの確認をする必要があります。

 

 ものづくりは特許だけではできないし、「特許があればモノが売れる」ということもない、

と思いますが、それでも、特許はものづくりの支えになると言えます。 

しかし、最終的に市場に出て行く商品を保護できていない特許は「支え」としてはあまりに不十分で、時には全く「支え」の機能を果たさないおそれもあります。

 

 安定した支えとして機能させるには、最初の特許出願による基本的なアイデアで大丈夫だと誤解し、その後の変更や追加により改良された最終形態を護られていないまま公開してしまうことがないようにしなければなりません。

 知財関係のことに使える予算が限られる中小企業にとって、実際のモノが完成していない段階からなんども特許出願をすることは難しいとは思います。ならば、最終形態が決まるまでアイデアを秘匿し、最終形態が定まってから特許出願をする、という方針を唱える人が表れそうですが、その方針は必ずしも正解とは言えないと思います。

 アイデアは出せても、自前で開発することができない企業は、外部に製作を委託しなければなりませんし、開発能力を持つ企業でも、商品化した場合のニーズの見極めや販路を探索するために、早い段階で試作品を開示しなければならないこともあります。

 それらのシーンの全てにおいて、相手方に守秘義務を負わせることは難しいでしょうから、開示の前に特許出願を完了する必要があります。この場合は、開示前の特許出願は防衛目的のレベルで良いと割り切り、後日に、それを補強し、最終形態を護る力のある特許出願をすることにせざるを得なくなるかもしれません。

最終形態が決まってから特許出願をする方針には別の問題もありますが、煩雑になるので、今回は割愛します

 あれこれ考えると大変めんどうですが、個別具体的な事情に応じて、ものづくりの大事な結晶を護りながら大きく育てて、成果を出すしか道はないでしょう。

それを可能にするには、先にあげた3つの気づきのうちの3番目の

発明者の欲目で特許にこだわりすぎると、市場のニーズを見誤る」こと、

それからもう一つ

特許があればモノが売れるわけではない」こと

に気をつけながら、その他の問題をクリアしなければなりません。

 

私自身も、この点にくれぐれも注意して、自社の知財活動や試作を進めます。

お客様に対しても、上記の注意の目をもってそれぞれのご事情をしっかり見つめ、サポートをさせていただこうと思っています。


株式会社知財アシスト

代表取締役 小石川 由紀乃 (弁理士)