欧州だけでなく、世界の経済、政治にまで影響を与える、英国のEU残留か離脱を選択する国民投票は6月23日7時~22時(日本時間の23日15時~24日6時)に実施されました。
世論調査の状況はネットやTVニュースで頻繁に取り上げられていましたが、残留と離脱が投票前まで常に拮抗していました。筆者はブックメーカーのオッズを投票2週間前から見ていましたが、こちらは常に残留が優勢となっていました。
次図は投票開始後の6月23日20時55分の時点でのオッズを画面キャプチャーしたものですが、残留が1/8、離脱が7/1となっています。

この分数によるオッズの表現は「フラクショナル式(Fractional Odds)」と呼ばれるもので、右側がBet(賭ける)側の数字で、左側がそれに対して勝ったときにブックメーカーから支払われる数字です。
本例では残留に8を賭け、勝てば(残留では)、左側(1)+右側(8)の合計9が支払われるということになりますので、日本的な賭け率では1.125倍となります。 ちなみに離脱では1を掛けて、離脱に決まれば8が支払われ、賭け率8倍を意味します。投票時点では大多数の人が残留の勝利を予想していたことになります。
一方、大手世論調査会社「ユーガブ」が投票当日に約4700人の有権者を対象に実施した調査では、残留が52%で、離脱の48%を4ポイント上回る結果が報じられていました。
最終的な得票率は「離脱」が51.9%、「残留」が48.1%となり、世論調査の数字を裏返ししたような結果になりました.

一般に内閣支持率、テレビ番組の視聴率などのサンプリング調査は広く実施されていますが、数理統計学では、右(または下)のような関係式で表現されます。 (n:標本数、p:当該比率、d:標本偏差、λ:信頼水準で定まる値)
今回のような残留と離脱が拮抗し、50%前後の争いの判断は非常に難しく、4700人について信頼度99%で計算すると標本誤差は±1.88%と求まります。よって投票結果は想定誤差の範囲となり、むしろ世代間の差、地域の差など標本抽出のランダム性が担保できていたかの問題が残ります。
現実のビジネスでも、社運を掛けた新製品を発売する前には、特許調査と共にマーケットリサーチをするのが通例となってきています。モニターを選び、新製品の機能、性能やデザイン(カラー)など、既存の対抗商品やダミーを含めて複数の企画案で相対比較するのが一般的な手順です。
信頼度の高いデータを得るには、対象商品の狙いに合わせて、年齢、性別、そしてモニター人数を適切に設定する必要があります。
それにしても、4650万人の英国有権者に対して1万分の1に相当する4700人の世論調査について、数理統計学の威力を十分に感じた今回の“騒動”でした。
株式会社知財アシスト アドバイザーS

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アドバイザーSのプロフィール
学歴: 同志社大学大学院修士課程終了
職歴: ㈱パナソニックにて機器開発と半導体
開発に従事
専門分野:アナログ電子回路開発、データ処理技術、
技術英語
趣 味: 街歩き