「砂栽培農法について(その1)」の見出し
1.砂栽培農法とは?
2.従来の農業(土耕栽培)との比較
3.砂栽培農法のメリットを整理します
今回は、砂栽培農法のゆくえについて、私が考えるところをまとめてみました。
4.植物工場としての砂栽培
砂栽培は、水耕栽培と同様、植物工場の1つの形態です。
植物工場としては、水耕栽培ばかりが脚光を浴びていますが、砂栽培の植物工場も増加しています。


水耕栽培の植物工場には太陽光型とLED型がありますが、砂栽培でも同様にこれらの工場を運営することができます。
以下に水耕栽培と砂栽培の比較を表で示します。
水 耕 栽 培 | 砂 栽 培 | |
育成コンセプト |
安全で大量生産できれば良いという考えかた 肥満児を育てる発想 |
植物の育ちたい力を引き出し,健康児を育てる発想 永田(ながた)農法に近い。 |
実際の育成 |
肥料と水の摂り放題で肥満になる。 |
肥料と水は毎日の自動灌水で調整する。 自生力に働きかける。 |
育成コスト |
高い。 大量の水や肥料を入れる必要がある。 |
安価。 必要最小限の水と肥料でOK。 |
生育期間 |
成長が非常に早い。 年18~20作 |
成長は土耕栽培より早いが水耕栽培よりは遅い。 年10作程度 |
鮮度保持能力 |
土耕栽培よりも悪い。 |
土耕栽培よりもさらに優れている。 |
味 |
水っぽい。 ハンバーガーの付属程度ならばOK |
健康で野菜らしい味。 有名料理店にも納入され、高評価を受けている。 |
安全面・衛生面 での保証 |
証明しやすい。 |
証明しやすい。 |
病気の影響 |
水槽全体に病気が広がる(被害甚大)。 |
病気の部分だけ砂ごと除去すれば他に影響せず。(被害小) |
排水対策 |
以前は問題が多発したが還流式で解決した。 ただし高コストになる。 |
砂床から漏れるほど与えない。 |
初期投資額 |
高 価 |
水耕栽培より格段に安い。 |
作業性 |
軽作業。 ただし問題発生時に大事件となるおそれあり。 |
軽作業。 問題発生時も一部分対処で解決する。 |
認知度 |
認知度大。 日本政府が推奨した農法である。 |
認知度はまだ低いが、雇用推進事業としての実績がある。 |
実施可能性 |
大企業でないと採用は困難。 |
純農業としてだけでなく、副業・趣味などの目的での小規模な実施も可能。 |
このように、砂栽培は、水耕栽培と比べて多くの利点がありますが、認知度が低いという弱点があります。
5.砂栽培の応用展開
砂栽培は、お年寄りや、身体障害者のかたにも参加して頂ける新しい農法なので、以下のような形態での事業展開が可能です。
(1) 雇用支援農業
A.身体障害者雇用事業所(A/B型支援農業) 雇用補助金あり
B.高齢者・社会的弱者雇用農場
既に幾つかの農場で実績があります。
雇用推進に役立つと、高く評価されています。
(2) 生き物を育てる精神的効果(癒し・生きがい)を生かした事業
A.レンタル農場
B.高齢者施設での併設農場 (予防効果と農産物の売上)
農作物が毎日育っていく姿を見ることは、心を穏やかな気持ちにさせます。
清潔で、手軽に農作業のできる砂栽培は、お年寄りや女性を中心に高い評価を得ています。
(3) マンション・一戸建てへの「マイファーム」設置事業
砂栽培は、家庭でも簡単に導入できる技術です。
従来のプランターに土を入れるタイプより、はるかに清潔かつ手軽な家庭菜園が楽しめます。
土づくりや連作障害等、土を使った場合の問題がなくなります。
(4) 高齢者施設・幼稚園・レストラン等への小型菜園設置事業
家庭と同様に、小規模施設への砂栽培の導入も容易です。
収穫してから数時間以内に食卓に並ぶ農作物のみずみずしさは、人の心をとりこにします。
レストランや居酒屋で、収穫して1時間以内のものを提供できれば、大きな「売り」になります。
その他、複合的なコンセプトに基づいた事業展開も考えられます。
6.砂栽培と知的財産
砂栽培は、今から40年以上前に、城野 宏 さんという農業戦略研究家が、大手企業の協力を得て、
鹿児島県串木野市のシラス土で、ハウスの中に「砂漠」のような状態を作り、堆肥などを一切やらずに野菜を育ててみたのが始まりです。
結果として、非常に美味しい野菜を収穫することが出来たのです。
多くの実験を繰り返し、城野さんが引き出した結論は、
「肥料は普通の10分の1、水は100分の1、 1000分の1でもよい。
そのほうがかえって味もよくなる。」
というものでした。
水浸しの水耕栽培との大きな違いはそこです。
砂栽培は、かなり前に誕生した農法ですが、まだまだ確立されていないノウハウに満ち溢れており、 新しい農法として発展する可能性があります。

前回の記事でも書きましたが、砂栽培では、農作物の発育にとってプラスになるものも、マイナスになるものも入っていない砂の上で農作物を育てます。
従って、従来農法と違い、液体肥料の成分や、水と液体肥料の量と比率に関するノウハウが重要となります。
安価で機能的な栽培ベッドに関するノウハウも確立されていません。
砂の品質・粒度に関するノウハウも完全ではありません。
与える水に関するノウハウもいろいろと出て来そうです。
そういう意味では、今後、多くの発明・考案が生まれそうな予感がします。
7.砂栽培の将来
町工場の工員さんの昔と今を比べてみましょう。
昔の工員さんは、劣悪な環境で、汗と油にまみれて仕事をしていました。
しかし、今は、加工機械を数値制御で動かす時代です。
ボタンを押せば、どんな複雑な形状でも、機械がプログラムに従って、自動的に加工してくれます。
汗にも油にもまみれません。
農業と言えば、昔も今も過酷な肉体労働を伴います。
しかし、砂栽培は違います。
お年寄りでも、車いすのかたでも簡単に作業ができます。
町工場の工員さんの仕事は、過酷な肉体労働から、軽作業+管理業務に移行しました。
農業も、酷な肉体労働から、軽作業+管理業務に移行することを、もっと考えても良いと思います。
今の若者は、過酷な肉体労働を好みません。
同時に、結婚して、子供を養っていくだけの収入が欲しいと考えています。
彼らは、農業で仕事をすることを選ぶよりも、町工場の工員さんになるほうを選びます。

砂栽培を推進すれば、若者は農業に戻ってきます。
軽作業であるのと同時に、結婚して、子供を養っていくだけの収入が得られます。
簡単な試算の結果ですが、1つの家族で、1000平方メートルの温室を使って砂栽培をやれば、
年間600万円以上の利益が得られるという結果が出ています
生産する農作物によっては、もっと利益が上がります。
砂栽培は、日本の農業を救う、古くて新しい素晴らしい農法だと考えます。
松本圭介(株式会社知財アシストアドバイザー/有限会社エイエムアイ代表取締役)
松本圭介のプロフィール
1955年大阪府泉大津市生まれ。現在、豊中市在住。
東京大学工学部卒業。東京大学工学系大学院修了。
約15年間の会社員時代に、機能性セラミック、強化プラスチック、液晶ディスプレイなどの技術開発・商品開発を手がけ、管理業務や営業業務も経験。
その後独立し、様々な技術開発、商品開発、マーケティング、ビジネスプラン構築、知財戦略に携わる。、幅広い技術的知識を持ち、ものづくり補助金申請書作成支援のスペシャリストでもある。
人脈も豊富で、月に一度、「未来工房」という名称の勉強会を主催している。