発明と事業化

 多くの技術開発、特許に関して、その主体者が、技術的なレベルの高さ、商品化に対する主観的な思いこみにより、事業化あるいは特許の経済的な価値評価に困難さを感じている例をみることがある。

 

 このことに関し、欧州の事例ではあるが、参考になるレポートがあるので、紹介したい。


 価値創造をキャッシュに変える5つの方法

 

価値創造と価値獲得を両立する 

IMD教授 ステファン・ミシェル 

 「イノベーションには価値獲得が不可欠である」

  Harvard Business Review 2015年6月号 p.96-p.97

  高橋 由香理 訳 (引用は一部省略しています。)


 スイスに拠点を置くベスターガードーフランドセンは、ストロー型の超軽量浄水器「ライフストロー」の発売を通じて、イノベーションを生み出せることを実証した。ライフストローは、汚染水からバクテリアを九九・九九九九九%、寄生虫を九九・九%除去できるため、救援物資として支援団体に重宝されている。過去一〇年あまり、災害時支援で必ずといってよいほど配布されてきた。

 だが、飲料水の問題を抱えている地域は被災地に限らない。全世界で七億八〇〇〇万もの人々が、日常生活で安全な水を利用できないからだ。ペスターガードは、同社の顧客基盤であるNGO(非政府組織)よりもはるかに大きな潜在市場を見出し、製品開発とは異なる方法でもイノベーションを創出してみせたのである。

 ベスターガードが乗り越えなければならなかった課題は、ライフストローの価格だった。そこで同社は、一般世帯がこの製品を入手できるためカーボンーオフセットークレジット活用した。

 ライフストローを使えば、汚水を煮沸するために石油や木材を燃やす必要がないので、C02の削減実績で資金が調達できるのだ。これら二種類のイノベーション、すなわち価値創造型のイノベーションと価値獲得のイノベーションはどちらも重要だ。ところが、ほとんどの企業は前者だけに注目している。既存のアプローチで新製品を大量に販売できるなら、価値獲得の方法を考えなくてもよいかもしれない。しかし、価値獲得をなおざりにすれば、本来得られるはずの収益は、たいてい絵に描いた餅で終わってしまう。またビジネスを窮地から救うためには、価値を獲得する方法を見出すしかないこともある。 


 さらに上記のレポートでは、優秀な商品、発明について、その価値の社会への見せ方とビジネスモデルの創出により事業化を成功させた事例が紹介されている。また、技術要素と事業化の結びつきによる成功事例としてよりよきパートナーの存在が重要であることが、ビルゲイツの事例を代表として示されている。

 

 ところで、このようなビジネスモデルを意識した発明とか特許とか、あるいは新しい取り組みについて、中小企業の経営者たちは、敏感だろうか?

 筆者の答えは、残念ながら「NO」である。

 なぜそうなのかを考えてみると、中小企業の経営者には、忙しくて時間がないことと費用をかけることが出来ないことがあるからだとと思われる。

 

 

 以前に、非常な優秀な中小企業の経営者でNPO法人を立ち上げ、活躍している方であるが、「水道水の蛇口の圧力を使って、小さな発電をしたらいいと思う。省エネ、小エネに役立つと思う」という提案があったので、筆者が「それは、随分前に、トイレのフラッシュ用の電動バルブの電源用に開発されたが、休日あけの日に蓄電が不足してしまい、使えないこととなり、普及しませんでしたね」と指摘したら、そのような調査は行われていなかったことがわかり、がっかりしたことがある。

 

 

 ものづくりに対する刺激から、どうしても技術シーズが先行されがちであるが、せめて似たようなものに対する調査は十分に行って欲しい。そして、その調査結果によるスクリーンをかけた後に事業化へ、理想的には需要の創出まで進んで欲しいものである。

 そのためには、他人の知恵や経験も大いに活用すべきと考える。 

 

株式会社知財アシスト アドバイザー 米谷 政勝

米谷政勝のプロフィール

一橋大学商学部卒。
 大手プラントメーカーで発電プラント輸出営業ほか、国内外のプラント事業に従事。特に海外において、資材調達、輸送計画、契約などの経験を積み、技術に関する見識も豊富。
役職者としてのキャリアも長く、幅広い人脈を持つ。
現在は、中小企業のサポーターとして、海外事業展開支援を中心に様々な事業活動をアシストしている。
専門分野機器輸出入、海外契約、海外調達、経営計画


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